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カチッ
スイッチが切り替わると同時に、室内が明るく照らされる。
しかしそこに彼を迎える人はいない。
少年はコップ一杯の水を飲み、思い直して電気を消しソファに座った。
しばらくの間虚空を見つめ、そして膝を抱いて泣いた。

かれこれ一時間ほどたったときだった。
少年のほかに誰もいないはずの空間から声が聞こえた。
「こんばんは。お姉さんのこと、残念だったね」
それはまだ幼く、声変わりもしていないような声。
「お姉さんを失って悲しいかい?」
少年が顔をゆっくりと上げる。
そこにはまだ中学生になったばかりのような相貌のこどもがいて、
「聞くまでもなかったね。泣いているんだから。」
そして少しふざけたような調子で続ける。
「ねえ、藤宮伊織。藤宮祐を、そして過去に失った大事な人たちを取り戻したいかい?」
少年は答えず、かわりに問い返した。
「……誰だよ、オマエ」
「僕は爛。荒世爛〈アラセ ラン〉。呼び捨てでいいよ。年下だからね。」
この部屋に入るためにある唯一の扉には鍵がかかっているはずだ。そしてすべての窓にも。
「オマエ、どうやって部屋に入ったんだよ!」
爛のふざけた様子に対し、伊織は怒りを露わにして言った。
「そんな事はどうでもいいんだ。僕は君に聞きたいことがあるんだ。」
「聞きたいこと?」
「そうさ、藤宮伊織。もう一度聞くよ、君は大事な人を取り戻したいかい?」
「どうしてそんなことを……」
そんなこと、たとえ望んでも叶うはずないのにと、伊織は心の中で続ける。
「いいから。どうだい?」
強い調子で欄が言う。
一度死んだ人は帰ってこない。小学生でも知っている当然の常識だ。
だけどもし、万に一つでもその可能性があるなら。
「もしも取り戻せるなら、俺は取り戻したい。帰ってきてほしい……」
伊織の答えに、欄は満足そうな笑みを浮かべた。
「そう言うと思ったよ、藤宮伊織。そのもしもが叶うゲームがあるんだ。参加したい?」
「ゲーム?」
小さいころからテレビゲームと共に育った伊織は、当然それを思い浮かべた。
「ちがうよ、そんなゲームじゃないんだ。実際に殺しあうんだよ。」
「殺しあう……?そんなの、ゲームじゃねぇよ…」
「そう、普通のゲームじゃない。でもね、勝てば大事な人が取り戻せるんだから。普通じゃないのは当然でしょ?」
欄が微笑む。
「それに、たとえ負けたとしても死ぬのは君じゃないんだ。」
欄の声色が変わる。薄い笑いと穏やかな、優しい声。
「俺じゃない?」
「そう、君じゃない。死ぬのは君の騎士だよ。」
不意に欄の背後から、あたかも最初からそこにいたかのように甲冑の人物が現れた。
「紹介しよう。君の騎士だよ。名前はないから、あとで君があげてね。」
甲冑の人物は沈黙したままだ。
「騎士?」
「そう、騎士だ。この子が君の代わりに戦ってくれるんだよ。」
「俺の変わりに?どうして……」
「ルールだからさ。このゲームのね。」
きっと甲冑の彼にも戦う理由があるのだろう。
「最後だよ。大切な人たちを取り戻すため、自身を賭ける覚悟はある?」
「わかった……」
「ん?」
狭い部屋の中、一メートルもないような距離だ。
聞こえなかった訳ではないだろうが、それでも欄は聞き返した。
「そのゲームに、参加する。」
伊織は覚悟を決め、そして言い切った。
「歓迎するよ、藤宮伊織」
欄はまた、薄く笑った。

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